佐藤愛子 著 わが孫育て 文藝春秋
2008年
生まれ故郷を出てから五十四年になる。……鳴尾に立ち寄ったことは二度しかない。故郷を訪れる人が刻々と変わりゆく町の姿に失望と悲哀を味わねばならないのは、現代を生きる日本人の宿命ともいうべきものであろう。
社会の規範に納まりきれない情念、欲望を制御するのが「正しい生き方」なのだった。……「なぜそうなったか」よりも「社会のルールを破ることは悪い」ことだからだった。「悪いものは悪い」「いいものはいい」単純素朴で、それゆえに明快な世の中だった。
鳴尾という地名に惹かれて読んだ。鳴尾は学生時代を過ごした地で、親元を離れ、親・地元の価値観から解き放たれ、明るい希望を持てた地で、先輩・友人を思い出す。
それまでの写真の顔と真逆の笑顔がある時代。縛られた価値観は親から離れて解かれることもあると知った。我が子は高校を卒業後は家を離れた。ゆえに孫も遠い。親から離れて、それぞれの価値観で生きてたくましいと思うのは、最近の心境。 孫が遠いのは、辛抱しよう。近いツレを大切にしよう。