佐藤愛子 著 老兵の消燈ラッパ 文藝春秋
2010年
あれがいけない、これがいいなどと力んでもしょうがない。人は好むと好まざるにかかわらず時代の流れの中で生きる。人が時代を作る。そしてその時代に流される。生きることはそういうものなのであろう。今の女性は過去の日本の女性すべてが夢見、憧れた現実の中に身を置いている。だが、その時代がきてみるとそれでも新しい悩みが出てきているのだ。この世を生きるとはそういうことなのだ。……人はみな人の世のうねりの中を漂い流れているのである。漂う中で「何が自分にとっての幸せか」をしっかりと考え身につけることだ。たとえ他人の目には間違っていると見え、不幸せに見えたとしてもである。それしかない。そうしていかに生きるべきかを学んでいくのだ。…我が85歳の誕生日の感慨である。
親の規範であったように、私が親から教えられたのは、世間から見た幸せだった、そういう時代だった。望んだように平穏な暮らしにいる。しかし、子供たちは望んだ仕事に就き、ふるさとを離れて自分で考えた暮らしをしている。親が望む平穏な暮らしには遠いが、いかに生きるべきかを学んでいることを信頼しよう……と、思えるようになった本である。