覚えていない

佐野洋子 著  憶えていない マガジンハウス 2006年 

 若い人達はしたたかに生きて この世を作っていく。私達がなしてきたのとは全く別の感受性を持って新しい世界を作っていく。どんな世の中になろうとそれが世界なのである。江戸時代の人達が今の日本を想像できなかった様に、今の子供たちがやがて作るであろう新しい世界を私の貧しい想像力では思い描けない。立派にやっていくだろうと思うだけである。

 息子が6歳六の時……とんでもない悪さをしたのであろう……「母さんは出ていきます」と玄関を出ようとした。私の計算によれば……「ごめんなさい。もうしない。出ていっちゃだめ」という段取りであった。しかし子供は出てこない……行くあてもない。しばしの時を経て子供が出てきた。「帰れよ…オレハ引き留メタカラナ」と家の中に入ってしまった。6歳の子供にすっかり見すかれていたのである。

 書かれた文章が恥ずかしいのではない。私は恥ずかしく生きてきた…そしてみんな忘れているのだ

 

 著者は2010年に亡くなった。長男は「最後までわがままな人だった」と語る。

私は6歳の子供に、夕方まで帰らず心配して顔を見て安心しつつ「家にいれんよ」と鍵をかけた。子供は何にもアクションしないので鍵をあけると、虫と遊んでいた。それからすっかり見すかれた行動をしない親になった。長男に「最後までわがままな人だった」と語られるのかしら。わがままは変えられないなぁ。みんな忘れている…そうそう…だから、めげない今がある。