川村元気 著 百花 文春文庫 2021年7月
記憶を失くしていく老いた母と息子の物語。
主人公は37歳の男性で、アルツハイマー型認知症を患った母は、シングルマザーとして育てた。
記憶を失っていく母の行動にときにいら立ちながらも、世話をする息子の姿は、たいへんな介護の現実を描く。
認知症という病気は、ある人から唐突に人間性を消し去る残酷な病気のよう思われる。自分を忘れ、親しい人のことも忘れ、人格が破壊され、人でないものになってしまうように。そうではない。息子に昔の記憶が蘇る。
母は「花火はなんか悲しい。終わったら忘れちゃう。どんな色だったか、形だったか」
息子は「誰と一緒に見て、どんな気持ちになったのかは思い出として残る。忘れないよ」
母は「あなたはきっと忘れる。みんないろんなことを忘れていく。それでいいと思う」
母は覚えていた。自分が忘れていた。
感想:認知症の人の想定できない行動には、理由がある。人生で楽しかったこと、苦しかったこと、人は記憶でできていることからくる行動だと 盲点をついた小説で 読み終えると小気味いい。